卒論・修論・学術論文執筆と学会発表の基本的重要事項

(1)何も知らない他人の気持ちになって読んむことで、わかりやすい文書に修正すること:私が学術論文等を書く際はまず、2,3日程度の間に集中して書いてから、いったん、忘れて、数日以上経ってから、もう一度、2,3日で集中して完成させるようにしてきました。一回、作成した後、忘れると、他人と同じ視線で見れるので、わかりにくい文節・文節の不適切な順序等の問題点に自分で気が付きやすいからです。 自分の研究を知らない人にできる限り、理解してもらうためです。また、2,3日以上続けて書き続けても、頭が疲れてきて、どうどうめぐりになり、文書がどんどん悪化することも多々あるからです。 (あける日数が一週間がよいか、一日程度がよいか、数日書くのを3回以上繰り返すか、は、場合によって異なります。なお、あけた期間は休憩ではなく、別の仕事をします。)

ただしこれをやるとき、注意しないといけないのは、論文投稿の締め切り日よりもかなり早く始めないとならなくなることです。そうなると、研究成果がまだ十分にでていない、という場合もでてくるのでやっかいです。なので、論文を書き始めるときは、まず、その論文に書こうとする内容の題名、キーワード、と要点の箇条書きとコアになる図表を張り込むことから始める。最初から本文はかかないようにしてきました。まず、最初の半日は、読む人にインパクトを与える題名とキーワードをつくりこんで、それから次に、そのキーワード集を入れながらAbstractをつくり、それを読んだ人が本文も読みたくなるようにしてから、本文を書くことも結構あります。実際、論文のフォーマットは、題名、著者、キーワード、Abstractの順序です。そして投稿直前には、一か所のミスもないように集中して「はじめから終わりまで」何度も読み返してなおす。初めに記した論文題名が論文の本文を適切に表しているかどうか、や、共著者の見落としがないか、もみる。

就職活動の際のエントリーシートなどに対して私はアドバイスしませんが、学会発表は、就職活動に入る前の準備としても価値がありえます。というのは、学会の論文を読んだり、発表を聞くのは、ある程度、専門用語や中身を理解できる人達ですが、就職活動時の人事の方々は文科系が多いので、更に文書にみがきをかけ、一般の人にもわかる文書にしないとならないからです。

(2)論文中での使う用語は統一すること: なお、キーワードも含めて論文中に使う主要な用語は、論文の中で統一して変えないことが大事と考えてきました。例えば、「スパークプラグ」という言葉と「強制点火装置」という言葉を両方使わない。ひとつしかない装置や部品は、ひとつの用語で統一して説明する。読んだ人が、異なるものが2つある、と誤解しやすいからです。同様に、「同じような意味の文節を繰り返し書く」のもNGです。卒論の概要書や学生の学会発表論文のAbstractで、これが結構みられます。概要書やAbstractは文字数に制限があるので、その中に同じことを繰り返し書くようでは、重要なことが入らきらなくなるからです。発表のpptでは、強調するためであれば意図して2回程度、同じ文書があることはかまいませんが、それは結論のところで2回目、ということがほとんどです。

(3)最初から最後までの文書の論理の流れ:また、最初の目的と結論が連動しない人も結構います。例えば、pptの最初のところの目的では「熱効率を10%上げる」と言っていながら、結論では「試作エンジンが完成した!(やったあ!と言いたいのでしょう)」だけで終わるとか。最初に「熱効率を10%もあげる」のが目標だといったら、聴いている人達は、結論で10%上がったかだけを聞きたくなるので、1年間、毎日頑張って、旋盤・フライス盤使って試作エンジンが完成したといっても、ほとんど、評価されないのです。ですが、最初に「熱効率を10%あげるために新たなエンジンを試作することが目標」とかいていれば、結論で「エンジンが完成した!」といえば、ほほ笑んでくれることが多い。

最初に書く「過去の経緯や目的」の節・章の次には、「研究方法・装置・条件・定義」等の節・章を記載し、その後、「図表とともに結果」の節・章を書いてから、「結論」の節・章という順になる。読者は基本的にこの順に読んでいくと考えるべきです。しかし、書きなれない人は、この順序が不適切になる部分が結構ある。例えば、過去の経緯と目的のところに、研究方法の一部や、結論の一部まで記載してしまう人も初心者にはいます。しかも、初心者は、一行程度ごとしか目にはいらないので、その局所だけ直す傾向があり、その前後の文書とのつながりが悪くなっていくことが多い。つまり、なおしてみたら悪化するということです。あるひとつの節・章を構成する文節(数行程度のもの)と文節の順序が論理的に逆になっていることも多い。同じような意味の文節の繰り返しになっていく人もいます。なので、一度、書いた文書を修正していくときは、なおそうとしている一行程度の文の前後(その節全体、か、できれば、その論文全体)に書いたことの要点の群を頭に記憶した状態で、局所的な一行程度の文をなおすことも必要になります。それでもうまくいかない場合は、それぞれの一行程度の文をなおし続けるのではなく、一行程度の文と他の文の順序を入れ替えることを考えるのもひとつです。複数の文節の順序の入れ替えも、です。

これらは、私が若い頃になりがちだった事項と、その対処法でもあります。

(4)発表のppt:次に、発表のpptと読上げ原稿についてもう少し記しておきます。 このことについては、研究のジャンルによっても大きく異なることがありますが、私からの若い人への基本的なアドバイスを記しておきます。

pptは視聴者の視覚に訴える手段で、話すことは聴覚に訴えるものです。 なので、視覚と聴覚から入る情報を、視聴者の頭の中で共鳴させるため、pptに文書を書いた場合は、その文書と読上げ原稿はできるだけ、一致させることが大切です。 pptの作成には比較的時間をかけようと努力しますが、それができてから読上げ原稿作成する人も多く、ばててきて、読上げ原稿は練り上げきれない人が多いことも理由の一つです。 口頭での説明は、pptの補足ではなく、重要からです。 ただし、聴覚から入る情量よりも、視覚から入る情報量の方が多いので、口頭説明と同じかそれ以上に、pptは重要です。 また、各pptのページの上部の題名が、そのpptの下部の中身に適切に対応しているか、も確認し、その上で、それに対応する読上げ原稿の部分も一致させるべきです。発表よりかなり前に、Abstractや講演論文を提出していることが多いので、その文書をpptで利用することを考えることも一つの方策です。

なお、pptの機能には、投影する部分の下に読上げ原稿を書けるところがありますが、そこに読上げ原稿を書いたあと、別のファイルにまた別の読上げ原稿を書く人がいますが、これは やめるべきです。1か所だけに統一しないと、どんどん、ばてていくからです。

pptに記す文字の大きさは、20pt程度以上にした方がよい。これより小さい文字は、講演会場の真ん中より遠いところの人には見えにくくなるからです。ただし、そうなると、pptに書ける文書量は多くはできない。特に、発表の半ば以降は、理論式、装置、結果の図などが増えるので、そこに文書は多くは書けない。なので、各pptで最も言いたいことは何か、を意識しながら文書を書く。一枚のpptに3つ以上言いたいことがある場合は、2枚に分けることも考えてみる。発表時間は限られている学会がほとんどですが、pptの枚数に制限のある学会はほとんどないからです。そして、各pptができてきたら、全てのpptの内容の順序が適切かどうかも確認する必要があります。

(なお、このように、pptに書ける文書量には限りがある。なので、論文を書く前に発表のpptをサラッとつくって、それを膨らませてから、論文を書くのも一つの方策です。このやり方では、pptの機能を活かして、図の作成をしっかりさせやすいメリットがあります。)

読上げ原稿は、発表前に覚えておいて、登壇時には見ないことをおすすめします。 pptの全体を事前に頭に入れておかないと、質問に答えることができにくくなることも理由ですが、全体を頭に入れておかないと、各ページの順序を最適にできなくなるからでもあります。

なお、上記の方法は、私にとっては良い方法ですが、研究ジャンルによっては、別の良いやりかたも見てきました。例えば、各pptには題名一行と図だけというページが多い形をとる人もおり、これは、各ページで何をいいたいかを一行の題名で言い切る訓練にもなります。なお、この場合は、読上げ原稿はしっかりつくってゆっくりと説明する必要があります。また、一枚のpptに図を3枚以上入れる人が多い研究ジャンルもありました。一枚の中に入れた複数の図と図の関連性が重要になる研究の場合です。ただし、このやり方では、一つ一つの図や文字が小さくなるので、その点ではわかりにくい。なので、どのやり方も万能ではないことをあえて記しておきます。

pptが完成したら、学会に行く前日までに、発表時に使うノートPC上で、pptの全てのページの内容に問題ないか、確認すべきである。pptを研究室のデスクトップPCで作成後に、ノートPCで発表練習してみると、動画が動かなかったり、文字がページからはみ出ていたりすることが結構あるからである。また、学会に行ったら、発表のセッションの前に、その会場のプロジェクターに接続して、問題ないことを事前確認すべきである。万がいつ、発表できなかったら、それまでの努力が全て水の泡になるからである。(余談だが、フランス南部の観光地で開催された学会に行った時、たまたま、その街が30分程停電し、プロジェクタが使えなくなった人がいた。その登壇者は、「以前、ギリシャあたりの学会でも停電したので慣れている」と言いながら、自分の研究内容を、ジェスチャーだけで説明した。聴講者はみな、その人の名前は覚えただろうが、研究内容は何も伝わらなかったと思う。なお、30分後に電力が復活したので、その人は特別、少し後の別の時間帯にプロジェクタでの発表もさせてもらえたが、こんなことは普通はさせてもらうえないと考えた方がよい。大抵の学会のスケジュールは過密で、空いている時間帯はほとんどないからだ。しかも、講演会のプログラムは急に変更できないので、新たな時間帯に発表しても、聴講者は少ないと考えた方が良い。)

(5)卒修論発表に至るまでの研究室内コミュニケーションの基本

新コロナウイルスが蔓延し、自宅での勉強・研究が増えてから既に2年が経過した。これでは学生のコミュニケーション能力が向上しないのではないか、と考え、HPにアドバイスを記してきたが、やはり気になることが時々起きている。今後、2,3年生が研究室配属された後の事が心配になり始めた。なので、研究室配属後の卒論研究の進める上での基本事項を追記するにした。

まず、メールを書く際の基本的注意事項は、「重要点が相手にわかりやすく伝わる文章かどうかを考えて書くこと」である。また、研究室内の同じ研究班のメンバーに情報共有するために、そこそこ、㏄をすることが必要である。例えば、何かを購入する際、先生に許可を得るためにメールを打つとき、購入希望品のことばかり気になって、班内に㏄しない学生が増えているように感じている。これでは、先生とそのメールを出す学生しか、購入するものがわからないので、同じようなものを二人以上が購入しようとするといったことも起きかねない。研究室で購入するものはたくさんあるので教員は全てを覚えてはいられないことが多いからだ。また、研究室内の会計係にも㏄しないと、研究室内全体の予算管理にも問題が起きる可能性が増える。(もちろん、私の研究室で卒修論のための物品を購入する際は、私・研究室の会計係・先輩と相談してから見積もり書をとって、その見積もり書に私がサインしない限り、購入手続きをしてはならないルールにはしている。)

また、相手から来たメールはしっかり読んで、重要点を見落とさないようにしないと、相手への返信はまともな文書にならない。最近はメールとラインが増え、それを読むことがおっくうになってきていて、重要点を見落とすことが増えていると感じている。これではいくらやっても相互理解は進まない。例えば、研究室外の若者とのやりとりでだが、私が「大学の事務所に〇〇の書類を提出しないさい」とメールしているのに、私に書類を送ってきたケースもある。

また、別の気になる事例は、プライベートな悩みが解決できず、卒論が進んでいないケースである。コロナウイルスで自宅にこもりがちになり、仲間や先輩に相談しにくくなっているようだ。特によくないのは、「プライベートな事は卒論とは関係ない」と勝手に考えてしまい、「先生や先輩に相談してはならない」と勘違いするケースである。一例をあげると、新コロナウイルス問題で、ある資格の更新にいけず、資格抹消になったらどうしよう、と不安にかられて、研究に集中できなくなった人がいる。プライベートなことは、教員や先輩の側からは聞けないので、妙な壁ができていることが増えているように感じている。

また、メール、ライン、電話の適切な使い分け、ができていないと感じることが増えている。一例だが、短い要件や早く返事が欲しい事項はライン、データ等を添付して少し複雑な事項はメール、それでも相互理解しにくい場合は電話、という使い分け方がある。メールでデータ等を送ったら、直後にラインで相手に「メールしました」と伝えることも、仕事を加速する方策の一例である

なお、研究室内のデータ・プログラム等は㊙であることが多いので、ラインメッセージやメールに添付してはならない場合もあるし、データにはパスワード設定等することも多い。ラインは使用禁止の研究室もありえる。研究室に配属されたらまず、そのあたりのルールを先生や先輩に聞いておくべきである。勘違いするかもしれないので補足すると、各自が自分で購入したものを研究室に持ち込む場合も、先生や先輩に相談すべき場合が多い。一例をあげると、自宅にあった本棚(机上の小棚)を持ち込みたい場合、大きいものは通路を塞ぐかもしれないし、地震で倒れる可能性も考えないとならない。(研究室内の棚は基本的には壁に固定してある。)就職後、企業では当然、限定されたものしか仕事場に持ち込めないので、研究室での生活はその準備練習だと考えればよい。

研究室配属されるまでに、サークル内の仲間や先輩とのやりとりの際、コミュニケーションの取り方のレベルアップを図っておいた方がよいとも思っている。これらは、研究室内だけでなく、その後の就活時のやりとり、にも直結するからだ。

2020年12月初稿、2021年7月3日改訂、2021年8月改訂、緑色は2022年3月3日以降に追記。