私のドイツ滞在経験から得たもの

海外の技術のマネや国際連携だけで日本はやっていけない、と言われて何十年も経過しました。独自のアイデアを更に出していくことが今後の日本や世界の発展にとって欠かせません。ただし、表面的な研究の量ではなく、中身の質が問題になると考えています。

なので私は若い頃、「海外の大学等で見聞を広める前に、まず、日本で業績を出す」ことに注力しました。土台がないのに海外に行っても得られるものは少ないと感じたからです。幸いにも成果が出て、それを恩師が宣伝してくださり、海外の航空流体科学の先生から招待されて留学経験も踏むことができました。私の研究成果と”私”を海外にまで宣伝してくれた恩師は、吉田松陰の生き方を参考にした方でした。(なので私も、年を取るにつれ、数名の恩師からいただいた恩を次の世代に返したい、という思いが強くなってきています。ただし、これは、甘やかす、ということとは違います。)

今思えば、恩師が私を宣伝してくださったせいもあって、滞在先の先生や学生が、私の研究成果に興味を持ってくださっており、丁寧に説明したら、あちらの未発表の最新研究成果(航空機・エンジン・生命医学に関するもの)も多々見せてくれました。そのような楽しい議論がもとになって、その後も共同研究になり、共著の論文も書きました。また、滞在先でも給与(奨学金?)をいただいたので、それを全てつぎ込んで、BMW316をひと月間借りることができ、アウトバーンを走っていたら、私の母親のような年輩の女性が運転するベンツが後方から来ていきなり張り付かれる、といった経験もしました。ドイツ人は日本の高速道路よりもかなり高速で走っているので、無意識に日本の速度を守っていた私との速度差(100㎞/h程度かそれ以上)が大きく、一瞬で後にへばりついてきたのです。日本の高速道路の未来の姿をみた思いがしました。

しかし、ドイツで得た最も重要な事は、「研究力も含めていくつかの点で日本がよいということを認識できたこと」でした。よく考えてみれば、日本は多くのノーベル賞(将来、人類の暮らしを豊かにする可能性のある科学技術)も出しているわけですし、 私の研究成果を宣伝してくださった日本人の恩師のひとりはMax-Planck賞を受賞しています。日本人であることを誇りに思うことができたのです。 灯台下暗しでした。(注0)その後、不思議な縁で、京都にある国際高等研究所の物理学系の集まり(複雑系研究会)にも参加・並属、横須賀にあるJAMSTECの極限環境微生物の研究チーム長(微生物研究の大家)に、あるアイデアを話したら「出入り自由」と言われ、そこで、基礎生命医学・環境問題対策研究を進めるための重要な事に気が付くことにもなりました。例えば、従来の医学では、脳外科・内科・外科・神経科・循環器内科・耳鼻咽喉科・泌尿器科等のように見た目で切りわけているが、全ての臓器が連動して健康状態を左右していることです。「生命全体をひとつのものとして考えなおす必要がある」と感じ、それが、 新たな解体新書の理論(生命の設計図に関する新たな説明:Onto-biology)の提案につながっています。また、窒素酸化物(NOx)は大気汚染物質として規制の対象にされていますが、人間のような多細胞生物も一酸化窒素(NO)を有効利用している可能性があるという研究論文を知ったことも大きな発見でした。この知見にたどりついたのは、理化学研究所が出している微生物カタログやJAMSTECの研究をみていたところ、CO2やNOxを吸収しそうな微生物も多々いることを知ったからです。エンジンの排気ガスの一部が人体にとって有益かもしれないと知ったとき、更にエンジン研究をヤル気になったのです。

最近、日本では「風車を急激に増やそう」という人がいる一方で、同時期に「ヨーロッパで自然エネルギーの価格があがっている。(2020年11月)」とか「日本では自然エネルギーに関連する設備の維持が困難で研究開発から撤退する。(2020年12月)」という記事を多々みた。温暖化問題の深刻化は20年程前から感じてきたので、ソーラー・風力などにも力を注いで、 電池の利用も拡大していかなければなりませんが、LCA問題・劣化問題(耐用年数)・価格・維持費・有限な資源・充電設備等を考えると、今でも、そう簡単に、「エンジンを持つ車(注1-1)」を半分以下にできるとは思えないのです。「自分がBEV(電池だけの車)を買うか?」という視点で考えてみるとよいと思います。価格や充電設備の問題はお金で解決の方向に向かったとしても、電池の劣化問題が焦点になるように思っています。「自動車を含む移動装置には、確実に目的地に着くこと」が求められるため、大量生産した電池の中で最も劣化した個体が問題になるからです。(注1-2)このことも踏まえて、現時点で私が持っている情報からの試算では、2070年頃、BEVの航続距離(5-10年使用した後の航続距離)が 、ハイブリッド車(HEV:燃料タンクは徐々に小型化)にようやく追いつくか、というところです。50年後です。(プラスマイナス20年程度のずれはありえるとは考えていますが、最も確率が高いと考えているのが2070年付近です。 なお、生産から5-10年が経過した中古のBEVの下取り価格、や、HEVの更なる進化は考慮していない試算でです。 )

燃料電池が増えるようになれば、そこから水素エンジンの方が増えるのではないか、とも考えています。火力発電所は水素混焼率を増やしていくだろうし、各種の工場でも、水素利用は増えていくと考えられるので、その近辺で水素を自動車にも供給しやすくなるかもしれないからです。エンジンは、うまくメンテナンスをすれば、何十年も使えるので、BEVが増えるようになってきたら、更に「エンジンだけを持つ中古車」にも関心が高まる可能性もあると思っています。新車生産時のCO2排出が減らせるし、ハイブリッド車の電池も劣化するからです。 (注2、注3)

まして、航空宇宙用はエンジンが主であることは言うまでもないと考えています。

だから、「地上と航空宇宙用途で利用可能+燃料を選ばない+ほぼ完全な断熱化+低騒音型高圧縮比」による超高効率エンジン(Fugine)」や「放射線を出さない弱い原子核リアクタ(22世紀のエンジン:Fusine)」を加速しなければならないと考えているのです。 今後の数十年以上に渡って、水素やバイオマス燃料等も含めた様々な燃料と相性のよい超高効率エンジン(Fugine)でHEVを含む様々な動力システムをアシストし、更に燃料供給が半年に一度程度の異次元リアクタ(Fusine)によって、一気に根幹から環境エネルギー問題を解決し、しかも、地球と地球外での人類の活動を更に活性化するためです。 このFugineとFusineは、先に述べた長針型テーマと短針型テーマに相応し、しかも、その2つを繋ぐ基本原理は共通なのです。

これからの20年ほどは、カンブリア紀のように、多様な技術が試される時代になるように思えます。カンブリア紀の後に出てきたのは何だったか、を思い出すことも大切でしょう。

従来の技術ややり方を否定するとき、しかねないときは、”数字を含んだ分析データ(グラフ等)”を見せて、”具体的な”代案を同時に提示することも大切です。

(注0:「ドイツでいろいろな最先端の研究情報を得たり貴重な体験をしたのに、何故、日本の方がよいと思ったのか、今一つ、理解できない」という方もおられました。なのでこの点について補足すると、アウトバーンでおばあちゃんのベンツに道を譲った瞬間、「一度、日本に帰って、自分の保有していたR32(215馬力エンジン搭載)を持っていってアウトバーンで走れば、おばんちゃんには抜かれない」と思いました。)

(注1-1:ハイブリッド車を含みます。注1-2: 私は、雪の多い山形県で5年間生活しました。この経験から考えると、目的地に着かないということは、生死にかかわることにもなりかねないのです。 )

(注2:20年以上先のことを各自が考えて青写真を持つことは重要ですが、そもそも、各企業や政府が具体的な事業計画できるのはせいぜい10年程度だと思います。なので、20年以上先のことを議論・決定するのであれば、自然エネルギーだけに意識を集中するよりも、まだ、未知な可能性の候補も含めて、全ての可能性を激励すべきだと考えています。日本はこの50年間に大きな発展をしてきましたが、それは、50年間の具体的な技術の計画を最初にしたのではないからです。私も企業に10年以上おりましたので、事業の「選択と集中」という言葉はよく聞いてきましたし、それは企業ではある程度、必要なことでしょう。しかし、少なくとも10年以上先の技術をも担う大学では、「多様性と自由」という言葉が最重要と考えてきています。)

(注3:なお、欧州では政府の厳しい環境問題に関する規制・多大な補助金が多々でてきており、一昨年(2018年)、私がドイツに行った際でいうと、郊外から町の中心部に向かう自動車には制限がかかっているということもありました。なので、今は、BEVを買わざるを得ない状況が増えてきていますが、今後は、自転車・二輪車への関心が更に高まる気配もでてきています。なお、自動車の数は、人の数に比例すると考えており、自転車・二輪車が車の代わりになるとは思えません。私も一度、カーシェアに入ったことがありますが、不便なのでやはり、自家用車に戻りました。「街中に行くことが主の人は電動アシスト自転車・電動バイク・2人乗りの小型コミュータ、それ以外の利用が多い人には、プラグインハイブリッド(PHEV)を含むHEV」という考えが勝っていくように思っています。PHEVは、街中の短距離走行でエンジンをほとんど使わずにすむので、その点でも今後、拡大する可能性があります。 欧州ではもともと、ロングドライブを重視する人達が多く、ディーゼル車が多いので、BEVはそのニーズにあわないからです。 なお、仮に、自動車の半分がBEVになったとしても、残りの半分はエンジンを持つ車であり、その市場は、他のいろいろな産業に比べて以前として大きく、しかも今後の数十年に拡大するアフリカ市場ではエンジン車が主のはずです。昨年、出張でイタリアにいった際、経由地がドバイでした。巨大な空港で、ヨーロッパの玄関(ハブ空港)、と感じました。なので、ここがアフリカ発展の起点のひとつになる可能性がありますが、カーエアコンが必須であることもあって、BEVへの関心は薄いようです。 移動中に熱中症になるわけにはいかないからです。走行距離1000㎞のBEVが出てきてもアフリカに大富豪が多いわけでもありません。自動車用エンジンは今後、炭素の少ない燃料を増加させていく形に進化していくでしょう。日本が世界に誇れるエンジン技術の進歩を止め、他の国がやることになっていってしまったらどうなるか、と考えてみることも大切です。また、エンジンがシリーズハイブリッド用だけになって一定回転速度での発電専用になったとしても、その熱効率がシステム全体の効率を決定する主要部であることに変わりはないのです。 今まで自動車では、600rpm程度のアイドリングから全開加速における6000rpmにいたる広範囲で使われてきましたが、 ようやく、航空用エンジンのように一定速度条件のみでの利用になって少しはエンジンに楽をさせてあげられる、とも言えます。更にいえば、新コロナウイルスによって加速した「情報技術による在宅生活・勤務の増加」をきっかけとして、個々人の移動量を減らす動きが加速しつつあるのかもしれません。 そうなると、3次元立体視での動画、5G、6G等を生命線とする情報の流れが急増し、電力も更に必要になるかもしれない。なので、やはり、その意味でも、エネルギー供給を一極集中にしてはならないと思っています。)

2020年12月初稿、